幸せという病気
そしてその頃、何も知らない武は・・・。



「よし!!香樹~。風呂入るぞぉ!!」

「はぁ~い」

香樹の頭をシャカシャカとシャンプーしながら武は話す。

「髪伸びたなぁ。お姉ちゃんに切ってもらわないとなぁ」

「お姉ちゃんはまだ病院?」

「ん?そうだなぁ。もうちょっとかな」

「早く良くならないかなぁ」

「そうだなぁ。香樹はお兄ちゃんとお姉ちゃんどっちが好きなんだ?」

「両方~」

「どっちかっていったらさ」

「お姉ちゃん」

「なんで?」

「優しいからぁ」

「・・・じゃあすみれ先生とお兄ちゃんは?」

「すみれ先生~」

「なんでよ」

「優しいもん」

「・・・あっ。竜司兄ちゃんとお兄ちゃんは?」

「竜司おに・・・」

「はい流しま~す」




一方、病院では竜司がタバコを吸いに下へ降り、遥とすみれは二人きりになった。


病室には、小さな灯りだけが灯っている。

「すみれさん」

「ん?」

本を開きながら、遥がふいに話し始めた。

「ごめんね」

「なんで?」

「心配ばっかかけるお兄ちゃんで」

すみれはニコッと笑い、両手を上げ、大きく背筋を伸ばして答える。

「たまにさぁ。遥ちゃんが羨ましいよぉ」

「どうして?」

「なぁんかっ。武と遥ちゃん見てると、やっぱり兄妹なんだなぁって思うよ」

「似てるかなぁ」

「結構」

「やだぁ~」

遥も、そう笑って答えると、すみれが続ける。

「あの人が見てるものってなんなのかなぁ」

「見てるものぉ?」

「遥ちゃんなら・・・わかる?」

「そうだなぁ・・・そりゃぁ、すみれさんを見てると思うよ?」


二人は少し顔が暗くなる。


「武は・・・なんかもっと遠いものを見てる気がするんだぁ・・・」

「遠いものって?」


遥の問いに、すみれは下を向いて続けた。


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