幸せという病気
「うん。でも・・・それは私にはわかんない・・・いつも一緒にいるのにさ。ホントは何にも知らないんだ・・・私、武の事。なんか情けないなぁって・・・思って」


「でも・・・それってダメな事かな・・・?」


本を閉じ、遥はすみれの目を見た。


「わかんないのはダメな事じゃないよ。お兄ちゃんからも、自分からも目を逸らさないすみれさん、私、好きだけどなぁ」


「・・・うん・・・」


「真っ直ぐになるとなんで人は弱虫になっちゃうのかなぁ・・・不安にもなるし、もっともっとホントの事を知りたくなっちゃう・・・その気持ちには多分誰もが勝てないよ・・・みんな弱虫を持ってて、みんな逃げたい気持ちを持ってる。でも・・・なんでかなぁ・・・割り切れないんだよね、その気持ち・・・不安で怖いのに・・・それは、相手の事を誰よりもさ・・・」



遥の言葉を聞き、すみれは目を瞑った。

その奥底から湧き上がり、見えてきたものは、一本の赤い線で武の心の奥底と繋がる。

また、その頃竜司は、喫煙所にいた。
一つ溜め息をつき、自動販売機のコーヒーを選ぶ。


「ブラック・・・がねぇじゃん・・・」

押しかけた人差し指を左にずらし、仕方なく微糖のボタンを押す。

と同時に、マナーモードにしていた携帯が震えた。

「ちょっと待ってねぇ、コーヒー開けてから」

携帯を振るわせたまま缶を取り出し、栓を開けた竜司はその瞬間、右から左に矢が突き刺さるような頭痛を感じる。

きつく缶を握り締め、ほんの数秒目を閉じ、治まるのを待つと、やがて携帯の振動が止まった。


「・・・いってぇ・・・電波アレルギーかな・・・」


そして一口コーヒーを飲むと、もう一度頭痛が竜司を襲った。
一瞬、時が止まったような感覚を、右手の力でなんとか現実に引き戻そうとする。


「なんだこれ・・・コーヒーもアレルギーか俺・・・」


そして竜司は、過ぎった不安を小さな声で押し殺し、タバコに火をつけた。


その三十分後、今度は武の携帯が鳴る。


「おぅ。どした?すみれ」


「こんばんは」


「あっ。こんばんは」


「今、家の前」


「家?誰の」


「会いに来ちゃった」
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