幸せという病気
第14章【伊崎 遥】
第十四章 伊崎 遥
ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・。
冷たい機械が、遥の命を静かに表す。
人工呼吸器をつけた遥は、その小さな口で何も語らず、原因不明の病と一人闘っていた。
暗く、何も無い闇の中で。
そして遥の病室には、全てが凍りつかぬようにと、竜司の心臓の音が温かく刻み鳴り続けていた。
その音に押されるかのように、遥は遠い意識の欠片を探し始める。
それは、この世に生きた証を探すかのように。
「お母さん、お母さんっ」
「どうしたの?」
「料理の作り方教えてぇ」
「料理?」
「うんっ」
それは、遥が十一歳を迎えたばかりの冬だった。
「何を作りたいの?」
「クッキー・・・」
「クッキー?誰かにプレゼントするの?」
「・・・うん」
「よしっ!じゃあ一緒に作ろうね」
「うんっ!」
遥が、そう笑顔で返事をすると、二人はそのまま買い出しに出かけた。
「遥ぁ、誰にプレゼントするの?」
「ん?内緒」
母親の問いに遥は恥ずかしそうに返事をする。
「わかった。同じクラスの祐樹君でしょぉ?」
「・・・」
続けて母親がそう言うと、遥は黙って下を向いた。
そしてそんな我が子の頭を、母親は優しい笑みで撫で、励ますように話す。
「頑張って美味しいクッキー作ろうねっ遥」
「・・・うん」
そして家に帰ると、当時十六歳の武が、晩飯はまだかと母親を急かす。
「武、今日はお父さんと外食してきてくれない?」
「え!?なんで?」
「ちょっと遥と用事あるから。ねっ?」
そう言われ、武が不思議そうに遥を見ると、遥は照れた顔で下を向いている。
「なんだか知んないけど、わかったよ」
首をかしげながら、武は父親の事務所へ向かって行った。
ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・。
冷たい機械が、遥の命を静かに表す。
人工呼吸器をつけた遥は、その小さな口で何も語らず、原因不明の病と一人闘っていた。
暗く、何も無い闇の中で。
そして遥の病室には、全てが凍りつかぬようにと、竜司の心臓の音が温かく刻み鳴り続けていた。
その音に押されるかのように、遥は遠い意識の欠片を探し始める。
それは、この世に生きた証を探すかのように。
「お母さん、お母さんっ」
「どうしたの?」
「料理の作り方教えてぇ」
「料理?」
「うんっ」
それは、遥が十一歳を迎えたばかりの冬だった。
「何を作りたいの?」
「クッキー・・・」
「クッキー?誰かにプレゼントするの?」
「・・・うん」
「よしっ!じゃあ一緒に作ろうね」
「うんっ!」
遥が、そう笑顔で返事をすると、二人はそのまま買い出しに出かけた。
「遥ぁ、誰にプレゼントするの?」
「ん?内緒」
母親の問いに遥は恥ずかしそうに返事をする。
「わかった。同じクラスの祐樹君でしょぉ?」
「・・・」
続けて母親がそう言うと、遥は黙って下を向いた。
そしてそんな我が子の頭を、母親は優しい笑みで撫で、励ますように話す。
「頑張って美味しいクッキー作ろうねっ遥」
「・・・うん」
そして家に帰ると、当時十六歳の武が、晩飯はまだかと母親を急かす。
「武、今日はお父さんと外食してきてくれない?」
「え!?なんで?」
「ちょっと遥と用事あるから。ねっ?」
そう言われ、武が不思議そうに遥を見ると、遥は照れた顔で下を向いている。
「なんだか知んないけど、わかったよ」
首をかしげながら、武は父親の事務所へ向かって行った。