幸せという病気
「お母さん。お願いがある」
「どうしたの?」
「海へ連れてって」
「海?」
母親が何故だと聞くと、遥は笑顔で答えた。
「茜ちゃんに会いに行くの」
「・・・よしっ!じゃあたまには親子二人で旅行しよーか!」
「ホントに!?」
「うんっ。赤ちゃんが産まれる前に二人で旅しよっ!」
「ありがとぉ!お母さん!!」
七月。
小学校が夏休みに入るとすぐ、二人は最初で最後の旅行に出た。
遥の担任に聞いた住所を手に、二人は茜の家を探す。
やがてバスを降り、紙に書かれた場所に着くと、女性が一人、庭で花に水をあげていた。
遥が話し掛けると、その女性はすぐに、その女の子が遥だと気が付く。
「・・・伊崎・・・遥さん?」
「はい」
「・・・赤塚茜の母です。娘からよく話を聞いていました」
遥の返事に、かみ締めた顔で女性は、遥と母親に深々と頭を下げる。
「茜は今、近くの海に行ってるはずです」
女性からそう聞くと、母親に許しを得て、遥は海に向かい駆けて行った。
そして女性は母親に対し、もう一度頭を下げる。
「ホントに遠くまで・・・ありがとうございます・・・」
「いえ。どうしても茜さんに会いたいって・・・あの子達の友情に距離なんて関係無いのかも知れませんね」
「・・・えぇ」
母親達はそのまま、家へとあがり子供達を待つ事にした。
その頃、遥が海岸線に着くと、茜は一人、海を見ながら浜辺で座っていた。
その少し悲しげな後姿を見て、遥は大声で茜の名前を叫ぶ。
「茜ちゃん!!!」
「・・・え・・・??遥ちゃん・・・?」
茜は遥に気付くと、自然と涙が溢れ出し、大きな海をバックにその場で泣き崩れた。
そして石の階段を駆け下り、遥は茜に思い切りしがみつく。