幸せという病気




季節は夏が終わり、秋になろうとしていた。








まだ外は暑く、熱の反動が何の影も無いかに見えた家族に、一つの小さな影を被せ、やがて初秋の風が全てをさらっていく。









「兄貴よ、あんたが裏金ばらまいてるの、バラしてもいいのかい?」


「家族の前だ。馬鹿な話はよせ。香樹を養子になんて出来るわけないだろう」






まるで、こうなる事が決まっていたかのように・・・


その一瞬はやってきた・・・。




ヒグラシの鳴き声が・・・


雨に濡れたアスファルトの匂いが・・・







病で意識を失う十八歳の遥は、ベッドの上で全てを思い出そうとしていた。

遠い記憶の向こう・・・いつでも遥は、恐怖から、自分の記憶を拒否し続けてきた。

母親が倒れてから亡くなるまでの、その全ての記憶の存在を・・・。






「俺はな、あんたのせいで親からも見離されて、地獄ん中を這いつくばってきたんだ・・・。そんな弟に、三人もいる子供一人くらいくれてもバチ当たんねぇじゃねぇのかい?綺麗な嫁さんと娘、傷つけられても嫌だろうに」

「ふざけるなよ小僧・・・俺を誰だと思ってる・・・」






その時、昏睡状態の遥は、過去の闇に少しでも柔らかい光を差し込もうとしていた。

それは十一歳の自分と、笑顔で別れた茜からのメッセージだった。










遥ちゃん。

思い出すの怖いけど・・・

・・・勇気出して?

私がちゃんと見守っててあげるから・・・

ねっ?



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