幸せという病気
お母さん。
私・・・。
あの日の事を、思い出さないように生きてきたんだ。
怖くて・・・どうしようもなくて・・・。
お父さんが捕まって・・・お母さんが入院した日・・・。
私・・・。
茜ちゃんに勇気を貰った。
だから・・・あの日の自分を探してみる・・・。
そして・・・。
もう一度、あなたに会いたい。
事件からおよそ八ヵ月後の五月十七日、母親の意識は未だ戻らないまま、ついにその時がやってきた。
「・・・お母さん・・・お願いだから目を覚まして・・・」
そう言い、遥は話す事の出来ない母親の手を握り、祈るように目を瞑る。
不安と恐怖でいっぱいの心を、ただ唯一感じる母親の手のぬくもりで、精一杯温める事しか出来なかった。
そしてその願いは、ほんの少しだけ届き、やがて目一杯の涙を降らす。
午前十時二十八分。
母親の意識が戻った。