幸せという病気
武が横たわる母の体を揺すり、名を叫ぶと、祖母が震えながらそれを止める。
やがて静かに臨終を告げ、医師達が出て行き、病室に誰よりも大きな声で香樹の泣き声が響いた。
それは、まだ泣く事でしか表現出来ない香樹の、精一杯の母に対するさようならだったのかも知れない。
そして遥は、家族に何も語る事無く、放心状態で病院を出る。
たった一つ、母親の最後の言葉だけを連れて・・・。
「・・・遥・・・」
「・・・ん?」
「・・・涙はね・・・いつでも遥を励ましてくれるから・・・泣きたい時は思いっきり泣いたっていい・・・」
「・・・うん」
「だけど・・・泣いたらその分だけ・・・強くなりなさい・・・そしてその分だけ・・・」
「・・・」
「・・・世界中の誰よりも幸せになりなさい」