幸せという病気
「おまえは自分が発作で苦しむよりも、遥が辛そうにしてる姿を見てる方がよっぽど堪えるし耐えられない・・・幸せ病はちゃんとそれを知っていやがるんだ・・・人が何に苦しんで、何に絶望するのか・・・」


それを聞くと、竜司の中に延々と降っていた雨が止んだ。

やがてすぐに、風さえも吹かず、世界は赤く染まり始める。


「・・・だけど、なんで今になって俺に症状が・・・」


そして竜司は、今にも飛んで消えそうな意識を奮わせ、確かにそこに存在する病を探った。

一つ大きく息を吐くと、心の奥底で立てた仮説を、武が確信に近付ける。




「それはさ・・・多分、遥の命が・・・」



「・・・もう残り少ないからですか・・・?」



竜司が問うと、武は頷き、この世の乱れた動きを改めて目の奥で見据えてみた。



三十秒程の痛んだ時間を、自分の中で包み込み捨てると、正常に戻す為のタバコを吸い、言葉を発する。



「・・・それがもう一つの幸せ病の本性かも知れない・・・」

「ってか・・・そんなの・・・ホントに神様の仕業なんですか・・・?」

「いや・・・多分、人間自身だよ・・・」

「・・・でも・・・武さん、何で幸せ病が治るかも知れないって思ったんですか?」


そして竜司のその質問に、武は自分自身の答えを出した。




「想いだよ」



「想い?」



「人間の生み出した病気なら・・・人間の想いでしか治らない・・・」



「・・・」



「・・・そう感じただけだ」






その頃すみれは、病院で検診を受けていた。


「相川さん、赤ちゃんの事・・・彼氏さんにお話されないんですか?」

「・・・」

医師が尋ねると、すみれはうつむき、不安な顔をする。

「怖いのはわかりますけど、もう時期、つわりも治まって安定期に・・・」

「先生・・・」

医師の言葉に被せて、すみれは切り出した。

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