幸せという病気
「・・・この幸せで・・・何かが変わっちゃう気がするんです・・・」

「え?」

「世界で一番好きな人の子供を産んだら・・・神様は黙ってないですよね・・・」

「・・・幸せ病?」

「はい・・・この子のパパにも・・・それから、この子にも、それが降りかかる気がして・・・」


それを聞くと、医師は笑顔で、超音波検査をしようと促す。

悩んだ顔ですみれは準備をし、やがて胎児心拍検出が行なわれた。

緊張を見せぬように医師は可聴音を聞き、優しい顔ですみれに話しかける。


「・・・赤ちゃんが生きている証拠です」

「・・・これって・・・」

「赤ちゃんの心臓の音ですよ?」

すみれは、自分の中で懸命に生きている、その命というものを実感した。

そして医師が続ける。

「例えそんな気がしても・・・この子には罪はありません・・・だから・・・幸せをしっかり願ってあげて下さい・・・」

「・・・」

「こんなに頑張って生きようとしてるんですから・・・」




検診が終わり病院を出ると、すみれは暖かい公園のベンチで武を待つ。

今日の青空はゆっくりと雲が流れ、それを眺めていると張り詰めていたものがフワフワと体から抜けていった。



午後二時二十八分。



しばらく目で追っていた雲がいつの間にか形を変え、公園に武が現れる。


「何?ぼーっとした顔して」


ベンチに座ったすみれの顔を見て、笑って武がそう話しかけると、すみれは首を横に振って答えた。


「さっき、そこで遊んでた子がね?」

「うん」

「走ってて転んじゃったの」

「まぁ子供だからなぁ」

「でも・・・その子、泣かなかった」

「偉いじゃん」

「うん・・・私は・・・」

「・・・私は?」

「私は・・・泣きそうなのに・・・」

「・・・どうした?」

武は立ったまま、微笑んで優しくすみれの頬に両手を添える。

すると、その手の温かみにすみれは涙が込み上げてきた。

そして小さな声で話し始める。

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