幸せという病気
その消えていった雫を見て武は、心配した顔ですみれを伺う。




「・・・すみれ・・・産むの、迷ってるのか?」


「・・・違う・・・」


「・・・」


「私はただ・・・この子の幸せを願ってる」


そう言い、涙の跡を拭うと、すみれは空を仰いだ。


「初めて知った時・・・中絶なんて考えもしなかった・・・元気に産まれて来るその顔を早く見たいって、早く抱きかかえてあげたいって・・・そう思った・・・」



「うん・・・」



「だけど・・・幸せを願う度に・・・苦しい・・・」



「・・・」



「・・・そんな風に思うの・・・私だけかな・・・」



「・・・すみれ・・・」



「この子が産まれて・・・私も病気になったら・・・この子はどうなるのかな・・・?」



「・・・」



「妊娠を知って嬉しくて嬉しくて・・・だけどすぐに不安が襲ってきて、病気が怖くて・・・私だけの体じゃないんだよ?だから、それを考えたら素直に喜んでいいのかわからなくなって・・・それで、武の事も、この子の命も心配で苦しくって・・・もう、私・・・自分がわかんなぃ・・・」



やがて耐え切れず、すみれが泣き出すと、武は優しい顔で隣に座って話し出した。



「・・・すみれはいつも自分に正直だね」

「・・・正直?」

「なんか・・・人って強くいようとするほど・・・いつしか、弱さを隠すようになる。でも・・・強いって、弱さを見せない事とは違うと思うんだぁ。ほらっ、弱いとこを知らなきゃ強くなんてなれないと思うしさ?」


「・・・そうだね」


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