幸せという病気
しかし、流れ出した澄んだ水は、すぐに幸せ病がせき止めてしまう。
そして、その日の夜。
その病が、ついに竜司に襲いかかってきた。
夕飯の後、竜司は武達の目の前で倒れ、そのまま遥の入院する病院へ搬送される。
そしてまったく先の見えない奇怪な病を前に、あの日と同じように武は、何も出来ずただ見守る事しか出来なかった・・・。
やがて集中治療室へと入った竜司の安否を思い、まだ寒さの残るロビーで、武は一人拳を握り締める。
その見つめる視線の先には、遥が倒れた日の光景が浮かび、また一方で、自分に降りかかる重みを蹴散らそうとしていた。
そのまま新しい朝を迎え、初めて発作で倒れた遥の症状と同様、竜司はすぐに意識を戻し、全てを知り、もがく為の時間を与えられる。
そして武は医師の呼びかけで我に返り、目を覚ました竜司の病室へと入った。
その、暗く痛ましい空間の中、自らを悩ます恐れを消し去り、武は竜司を気遣う。
「竜司、大丈夫か?」
その呼びかけに竜司は小さく頷き、だるく重たい体を起き上がらそうとした。
「いいから。ちゃんと寝て良くなれよ?」
「・・・すいません」
竜司が謝ると、その後、武は笑顔で話し始めた。
「朝、話したばっかなのに・・・タイミングってあるだろ」
「・・・そうですね」
武の表情を見て、安心した顔で竜司もまた、笑ってそれに答える。
そして一拍置き、武は自分から遥へ伝えるか否かを伺った。
「遥には・・・どうする?俺が言おうか?それとも・・・黙っておくか?」
「・・・いや・・・俺から言います」
竜司は小さな声でそう答えると、重たい天井を見つめながら静かに続ける。
「・・・武さん・・・」
「ん?」
「・・・遥は・・・こんな恐怖を体験してたんですね・・・」
その時、武は突然胸に痛みを感じ、それを竜司に悟られないように穏やかに答えた。
「・・・どんな?」