幸せという病気
武は熱い校内に足を踏み入れ、階段を駆け上る。





だが、無理だった・・・。





武は三階へ繋がる階段を覆う炎を前に、それ以上進む事が出来ない――。




「・・・なんでだよ馬鹿ヤロー!!」











と、その時。




今までパラパラと降っていた雨が勢いを増してきた。




しかしその雨はやがて・・・。














雨という雨ではなくなった。













ドォォォォォォォォ――――!











「なんだこりゃぁぁぁ!」






人々は一斉にその場から走り去る。

日本の数時間では決して降らない量の、その横殴りの豪雨は、一瞬のうちに街を水浸しにし、三階へ続く窓の割れた階段近辺の炎をほとんど消し去ってしまった・・・。


「なんなんだ一体・・・」


少しだけ勢いが弱まると武は雨で体を冷やし、もう一度三階へと向かう。

やがてしばらくすると、真っ黒な煙と灰でとたんに息が苦しくなった。

服の袖で鼻を覆いながら、三階へと一気に駆け上り、香樹の名前を叫ぶと、子供達の泣き声がかすかに聞こえてきた。



「まだ生きてる・・・」



そう思い、暗闇の中、声を張り上げる。



「香樹ぃーっ!!先生!!大丈夫か!?」



すると奥から、かすかに香樹らしき声が聞こえてきた。



「お兄ちゃん・・・」



「香樹!?」



そして声を頼りに部屋に入ると、香樹は真っ黒な顔ですみれにしがみつき、よく見ると七人程の生徒が、泣いてすみれを囲むようにうずくまっている。


「先生!大丈夫か!?」


地震後、すぐに火があがり、三階にはすみれ以外、他に教師はいなかった。

そして揺れの際に足を怪我したすみれは、放課後、教室にいた生徒八人をうまく非難させる事が出来なかった―ー。



「・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」



すみれは座ったまま顔を手で覆い、泣きながら武に謝る。



「先生・・・」
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