幸せという病気
その頃武は、署に着いた。

空は雲の流れが速く、どんよりしている。


「ハァ、ハァ・・・」

「よう兄ちゃん・・・やっぱり来たか」


茂が武を見てそう話し掛けると、息を切らしながら武が答える。


「ハァ、ハァ・・・そっちこそ・・・やっぱりいたか・・・」

「タバコをやめたらどうだい。体力落ちてるだろう」


そう言いながら、茂は自分のタバコを出し、嫌味を込めるように武に勧めた。

そして武は茂のタバコを手に取り、呼吸を整える。


「・・・ふぅ・・・中学のマラソン大会以来だよ、こんなに息切らして走ったの」

「過去を振り返り出したら、もう歳だなぁ。もっともワシなんか、思い出せないものが多すぎて羨ましいがな・・・」


そう言い、茂は笑いながら続けた。

「ワシの言った通りだったろう。それに気付いたから来たんだろう?」

「・・・何が起こるんだこれから・・・」


恐る恐る武は、茂に伺う。


「言っただろう、先の事はわからん。ただ・・・」


そのまま茂は黙りこんだ。




「・・・ただ、なんだよ」




「・・・もう、遅いような気がする・・・」




「・・・」




武は何も言えなかった。

何も予知出来るわけでも無い。

何も起きないかもしれない。

それでも何故か恐くてたまらなかった。







武は、単なる嫌な予感に怯えていた―――。








茂が続ける。

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