幸せという病気
「良い奴になりたくてやった事なら褒められて嬉しいだろうけどさ、俺は良い奴でもなんでもない。やっぱ痛いし、イライラするし。後悔もする。実際こうなるとなんで助けたのかなって思うよ・・・だいたい、人の目に見られて、当たり前にした事が『良い事』になっちまうなら見ないでほしかったな。あれは俺にとっちゃ優しさでもなんでもない。獣医として当たり前の事だから。仕事のせいだよ、職業病」




「ごめん・・・」





それを聞き、遥は謝った。





そして少し沈黙になり、遥は自然と心中を打ち明けだす。






「でも・・・それは優しさじゃないとか・・・違うよ・・・別に優しくしようとか、良い人って思われようとしたわけじゃなくても、私が昨日見たあなたは優しい人だった。優しいなぁって思った。でも私が勝手にそう感じちゃっただけなんだから自分を否定するような事言わなくてもいいよ・・・」



「・・・遥ちゃん、素直なんだな」






うつむきながら話す遥を見て、竜司はそれを交わすように笑顔を作り、お茶を差し出した。




竜司の言葉に、遥は少し淋しく悔しい気持ちと、恥ずかしい気持ちになる。

何かを隠すような少し冷たい目をした竜司の態度に、遥は思わず気持ちをぶつけてしまった。

なぜ、少しむきになってしまったのか・・・。

なぜ、竜司は自分を否定したのか・・・。

考えながらも他愛もない会話を交わし、また来るねと遥は病室を出る。


一方、いつの日からか竜司は、自分に素直になれず生きていた。

いちいち心を開いていては面倒だとも思っている。

褒められた事で実際には嬉しくもあり、それとは逆に自分の心の隙間に入ってこられるのが恐くも感じていた。

だからなのか、遥に優しいと言われた事もどこか信用出来ないでいた竜司だが、その反面、少し涙目になりながら話す遥に素直さを感じ、何か安らぎみたいなものを貰った。


どうして安らいだのか・・・。

素直になれない本来の気持ち・・・。


それを包み込むような遥の優しい目と言葉に、竜司は一瞬、遥になら心を開けるような気がした。





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