幸せという病気
一方その頃、弘樹と会ってから一睡もしていない武は電車に乗っていた。

手すりにつかまりながら、特にどこへ行くわけでもなく山手線に乗り、ただボーっと外を眺めていると、やがて池袋から出た車両はアナウンスが鳴り、新宿に到着する。

そしてそのまま降りる事もなく、ゆらゆらと横揺れに身を任せ、一瞬何気なく視線を車内に戻すと・・・






「あれ・・・?」






偶然、すみれが斜め前に立っている事に気が付く。


しかし先日の告白から、話し掛ける事が出来ず、なんとか気付かせようとわざと一つ二つ咳をしてみた。




「・・・あっ、武さん・・・?」



するとすみれも武に気が付き、自然と話し掛けてきた。





―渋谷、渋谷です―





アナウンスが流れるが武には聞こえていない。





「あれ、偶然だね・・・どこへ・・・?」





ぎこちなく武が返事をすると、ちょうど電車は渋谷に着いた。

すみれの立っていた反対側のドアが開く。




「・・・私、降りますね?じゃあ・・・」




少しギクシャクした感じが漂い、すみれはそう言うと、武を横切り電車を降りようとした。

あわてふためき、武はとっさに、




「・・・あっ、俺も渋谷だ・・・」




渋谷に用事もないのに、すみれと一緒に電車を降りた・・・。

そしてホームの階段を下りながら、武が伺う。

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