幸せという病気
武がニュースを見た日から二ヶ月が経つ頃、人々のやる気は完全に失せていた。
仕事で出世などしようものなら死んでしまうかもしれない。
子供を産もうものなら、病気にかかってしまうかもしれない。
人間は途方にくれながら、どこか醜い心を以前よりも持ち始めていた。
そしてその日、武は警察署のロビーで、茂と話をしていた。
「武・・・おまえが暴行してどーすんだよ」
「暴行って言うなよ、正当防衛だよ」
茂の言葉に、武が返す。
「あれから事件が増えた・・・定年が延びるなこれじゃ」
「本望だろ。もう帰っていいのか?」
「あぁ。もうみっともない真似すんじゃねぇぞ」
その後、武は署を出ると、弘樹との待ち合わせ場所に向かう。
その途中、信号待ちの車を見た。
車内には運転席に青年、助手席に老人の女性が座っており、車の前後には初心者マークのステッカーが貼ってある。
老人の孫だと思われる青年は、両手でハンドルをしっかりと握り、少し緊張していた。
それでも車内はとても明るい雰囲気で、青年は老人の顔を見ながら、そして老人は顔をしわでくしゃくしゃにしながら、共に笑顔で会話をしている。
信号が青に変わった。
青年は顔が真剣になる。
と、発進の際、緊張からかエンストしてしまう。
すると五秒も経たないうちに、後ろの車、その後ろの車が何度も何度もクラクションを鳴らし続ける。
老人はびっくりしながらとても心配そうな顔を見せ、ようやく発進できた青年はとても悲しそうな顔で、申し訳なさそうにゆっくりと走っていった。
その光景を見て、武は胸が痛くなった・・・。
歩行者信号を渡り、片道一斜線の道を歩く。
前を見ると反対車線の道が、ある車を先頭に渋滞している。
後続車を進めなくさせているのは渋滞の先頭にいる右折車だった。
そして武はふと、その右折車を見た。
運転しているのは気弱そうな老人男性。
直進車は譲ることもなく、走っていく。
『譲ってやれよ・・・』
武は心の中でそう思った。
仕事で出世などしようものなら死んでしまうかもしれない。
子供を産もうものなら、病気にかかってしまうかもしれない。
人間は途方にくれながら、どこか醜い心を以前よりも持ち始めていた。
そしてその日、武は警察署のロビーで、茂と話をしていた。
「武・・・おまえが暴行してどーすんだよ」
「暴行って言うなよ、正当防衛だよ」
茂の言葉に、武が返す。
「あれから事件が増えた・・・定年が延びるなこれじゃ」
「本望だろ。もう帰っていいのか?」
「あぁ。もうみっともない真似すんじゃねぇぞ」
その後、武は署を出ると、弘樹との待ち合わせ場所に向かう。
その途中、信号待ちの車を見た。
車内には運転席に青年、助手席に老人の女性が座っており、車の前後には初心者マークのステッカーが貼ってある。
老人の孫だと思われる青年は、両手でハンドルをしっかりと握り、少し緊張していた。
それでも車内はとても明るい雰囲気で、青年は老人の顔を見ながら、そして老人は顔をしわでくしゃくしゃにしながら、共に笑顔で会話をしている。
信号が青に変わった。
青年は顔が真剣になる。
と、発進の際、緊張からかエンストしてしまう。
すると五秒も経たないうちに、後ろの車、その後ろの車が何度も何度もクラクションを鳴らし続ける。
老人はびっくりしながらとても心配そうな顔を見せ、ようやく発進できた青年はとても悲しそうな顔で、申し訳なさそうにゆっくりと走っていった。
その光景を見て、武は胸が痛くなった・・・。
歩行者信号を渡り、片道一斜線の道を歩く。
前を見ると反対車線の道が、ある車を先頭に渋滞している。
後続車を進めなくさせているのは渋滞の先頭にいる右折車だった。
そして武はふと、その右折車を見た。
運転しているのは気弱そうな老人男性。
直進車は譲ることもなく、走っていく。
『譲ってやれよ・・・』
武は心の中でそう思った。