幸せという病気
それから五分ほど歩き、コンビニの前を通りかかった。
駐車場に250CCのバイクが停まっている。
その隣では空を見つめてタバコをふかす若い女性が座っている。
しばらくすると、コンビニの中から二十代後半くらいの男性が出てきた。
バイクの持ち主だろう。
男性が買い物袋をハンドル横にぶら下げ、バイクにまたがると、女が話しかける。

「遅いよ、あんた」

そう言い、女は男の後ろにまたがった。
武はそれを見て何故か虚しい気持ちに襲われる。

そこから坂を下り、弘樹の待つ喫茶店に着いた。


「遅せぇよおまえ」

「どいつもこいつも・・・」


弘樹が武を見るなり、「遅い」と愚痴を言うと、武は少し呆れ顔になる。


「今日は悪いな呼び出しちまって」


今日は珍しく、弘樹が武を呼び出していた。

弘樹からの誘いなど今までさほど無かっただけに、武は少し不思議に感じる。

すると、弘樹が話をし始めた。


「女房と子供、実家に移すことにした」

「別居かよ・・・どうしてまた・・・」

「うちの世界じゃ・・・幸せ病がうってつけの商売にだってなるんだよ・・・」


そして世間では、『無難に生きる』という言葉がニュースで取り上げられる。

今の世の中に対して発した首相の発言が問題になっていた。

しかし、いつからか誰もがそんな人生を望むようになり、武もその一人だった。



「こんな世の中になっちまうと、俺なんか逆に幸せだよな・・・」


武がそう言うと、弘樹は何故だと尋ねる。


「両親もいなけりゃ金も無い。幸せ病で死ぬなんて絶対無いぜ」


すると、弘樹はそれを否定した。


「それはわかんねぇぞ?」

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