幸せという病気
子犬を抱きかかえながら、子供のように遥が竜司に話し掛ける。


「名前二人で決めようよっ。二人で助けたんだし」

「でも弟が本人で決めたいんじゃないか?」

「あ・・・いやでも・・・そうだね・・・」


竜司が病院内の片付けをしながら冷静にそう言うと、遥は少し残念そうな顔をした。

竜司はその顔を見て、


「俺、あだ名とか付けるの下手だからさ・・・その・・・いい名前思いつかないかもよ?それでもいい?」


気遣うように優しく話し掛けた。

しかしそれに対して遥は、変わらず残念そうな顔をして答える。


「ん~・・・じゃあ弟に決めさせるね・・・」


本当は、竜司も遥と二人で決めようとしていた。

逆に遥は、「迷惑なんだ・・・」と勘違いをする。

気を取り直し、遥は明るく問いかけた。


「もう怪我痛まない?大丈夫?」

「あぁ。誰かさんの看病のおかげかもね」

「私?」


竜司が笑顔で頷くと、自然と遥にも笑顔がこぼれる。






・・・嬉しかった。





自分の看病で怪我が治ったからではなく、竜司の素直な言葉がただ嬉しく感じられた。



「何笑ってんの?」


「別に?」



竜司が笑っている遥を見てそう聞くと、遥はまた笑顔でごまかす。



「さぁ、今日はもう閉めて帰ろうかな」


「うんっ、お疲れ様」



午後四時過ぎ、竜司と遥は揃って病院を出る。


各駅停車の電車を待つ駅のホーム。


台風が近づいている為、強い風が遥の髪をなびかせている。



「あのさぁ」


「ん?」



竜司が話し掛けると、遥は聞き返しながら右手で顔にかかる髪を押さえ、その後ペットボトルのお茶を飲んだ。





「今度デートしようか」 



「えっ?」




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