幸せという病気
ふいに竜司がそう言うと、風の強さでうまく聞こえないのと突然の事で、遥は竜司に聞き返す。

すると顔を近づけ、竜司は耳元でもう一度同じ質問をした。

そして遥はドキッとしながら、とっさではなく自分の中でとても長い時間・・・現実はほんの二、三秒での返事だったが、頭の中で二、三十分も考えていたような感覚だった・・・。

「ボボボボ・・・」と、不規則に風の音を耳に感じながら、おそらく・・・遥のその声は、竜司には聞こえなかっただろう。

「うん・・・」と頷き、竜司を見上げたその顔は、風で涙目になりながらとても穏やかだった。




優の紹介を、あれだけ断り続けていた遥の十七歳の決心。











それは恋だった――。















家への帰り道。

母親の死を目の当たりにし、泣きじゃくった夕焼け空の橋の下・・・。

あの涙は、空にかえった母親だけが見ていてくれた。

あの時の涙を救い上げるような嬉しさと切なさを、遥は一人かみ締めて歩き出す。

そして遥のいなくなった橋の下の川岸には、母親の優しい笑顔がいつまでも翳っていた――。







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