幸せという病気
やがて遥が家につく頃、祖母が一人で夕食を作っていた。

遅くなった事を謝り、遥も手伝いだす。

いつものように武は香樹とおもちゃで遊んでいた。

そして四人はいつものようにテーブルを囲み、夕食を食べ始める。

変わらない事、変わった事。

変えたい事、変えたくない事。

思うようにいかない事実は、時として優しさを失くしてしまう。

膝を立てた香樹を、行儀が悪いと武は叱った。

遥は香樹と武を宥める。

香樹が優しい遥に寄り添うと、武は「頂きました」と、少しご飯を残して部屋に戻った。

そんな姿を見て、祖母が何かあったんだろうかと心配すると、遥はいつもと変わらない笑顔を見せた。

それは、祖母を心配させたくないという気持ちと、兄を優しく見守るような笑顔だった。




十分後。


食後の片付けをし、遥は武の部屋のドアをノックした。

部屋の中から武が返事をする。


「ちょっといい?」


遥がドアの向こうでそう言うと、武はドアを開け、中に入れた。


「何?」


少し冷たく武が聞く。


「どうしたの?お兄ちゃん」

「別に・・・なんか感じ違うなおまえ」


そこまで心配しているとは思えない感じの遥の問いに、武は遥を何か大人びて感じた。

それは自分が何かに戸惑っているからだろうか。

心のどこかで遥に助けを求めているかのような感覚だった。


「元気ないじゃん。らしくないよ?」


言葉遣い、年恰好は違うが、母親のような温かさが武を包み、イラついた気持ちが自然と楽になる。


「すみれ先生とはどうなの?」

「なんだよ、別にまだなんとも・・・」


楽しそうな顔で遥はそう言い、部屋の中をキョロキョロと何かを探し始める。

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