幸せという病気



急なその言葉に驚きながら、武は冷静に話を伺う。



「誰?」



「お兄ちゃん知らない人」








武は何を聞いていいのかわからない。

言葉に詰まり黙っていると、今度は逆に遥が尋ねてくる。








「いいよね?」








「いいよねって・・・」








「駄目かな・・・恋しちゃ・・・」








それに対し、武は無理に気持ちを落ち着かせて答えた。







「いいも駄目もないけど・・・おまえがいいって思うなら・・・」






遥は武の言葉を聞き、微笑む。


当時の写真が見せる笑顔とはどこか違った笑顔だった。

歳を重ねたからか。

ただそれだけではない。




遥は気付いていた。






――『気持ち』は悩み、悲しみ、喜び、恋をしたりしながら成長していってる・・・――






祖母の言葉が頭に浮かぶ。

当時と笑顔がどこか違うのは、『心』が成長した笑顔だからだろう。

その顔には不安な面持ちもあり、それ以上に人を好きになるという大きな『優しさ』がある。


武はその不安と優しさを静かに受け止めた。






先を見据えたり、過去を引きずったり・・・。




今を生きるという事は、そんな全てを受け止めなければならない。




過去も未来も、意味を持たせるものは全て・・・







『今』だから。







そしてそれを受け止められた時、そこには覚悟が生まれる。

武も遥も、悲しみを拾い、そしてそれを希望にした。




昨日辛かった事、そして明日が恐い事・・・。



昨日を生きた事、そして明日死ぬかもしれないという事・・・。











それでも、人は今日を生きている。









時間に逆らわず、武も遥も今日という日を終わらせた。





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