幸せという病気
何年ぶりだろうなどという気持ちも、父への怒りも恐さも全く無かった。



ただあるもの・・・。





それは挫折感と救いの気持ち―――。





武の覚悟は、自分へのバリアーだった。




やがて父のいる刑務所に着くと、冷たい鉄筋の壁が体を圧迫する。

その壁の外にいるというのに・・・。

父親が圧迫されているものはこんな程度じゃないんだろうと感じていた。

ここにきてドキドキしてきた武は、入る前に一本タバコを吸い、心を落ち着かせる。

そしてようやく心の準備が出来、中に入り案内を受けて待合席で座っていると、そこに何年かぶりの父親が現れた。


「・・・なんだ立派になったじゃないか・・・」


父親が武を見るなり話し掛ける。


「何年会ってないと思ってんの」

「・・・もう忘れたな・・・何年かなんて」


それを聞き、武は少し怒りが出始めた。

父親が続ける。


「どうして会いに来た・・・まぁ・・・そのひきつった顔を見りゃなんとなく見当はつくがな」

「・・・」

「なんだそのびびった顔は。もう二十二だろうが」



それを聞いて武は思った。



《何年経ったか覚えてるじゃねぇか――》




そして感じた。







無理に喋っていると・・・。






だが父親は、それを感じている武をもわかっていた。



「元気か?遥も・・・香樹も・・・」

「あぁ」

「そうか・・・おまえ何に悩んでる。俺に会いに来たってのはよっぽどだろう」

「まぁ・・・教えて欲しい事があんだ」

「なんだ」

「俺はどう生きればいい・・・わかんねぇんだよ・・・あの日から全然・・・」



父親は冷静に伺っている。



「あの日ってのはいつだ」

「親父がおじさん殺した日だよ・・・」

「・・・」

「・・・夢も捨てたし金もねぇ!香樹まだ六歳だぞ!?今は恐い病気だってある!どうしたらいいんだよ・・・」



それを聞くと父親は意外にも優しい顔をした。

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