幸せという病気
一度目の発作であれば、意識を戻した後すぐに体力が水準まで戻り、普段通り生活を送れる事。




ただ、いつまた発作が起こるかわからない事。





医者からは、幸せ病で苦しむ患者の平均的な症状の統計からでしか説明が貰えず、今後の処置方法なども曖昧なまま、もう一晩入院し、次の日に遥は退院をした。





遥にとって一週間ぶりの実家。



「香樹。おりこうさんにしてた?」

「お姉ちゃん・・・」


香樹は遥に抱きつき泣き始めた。

武はそれを見て、遥の存在の大きさを実感する。

遥は香樹をなだめ、祖母に家事をあけた事を謝ると、昼飯の準備をし始めた。


「いいよ遥・・・おばあちゃんやるから」


祖母がそう言うと、遥は無理に笑顔を作る。


「私、病気じゃないよっ。こーんな貧乏でさぁ、お母さんもいないし、お父さんは人殺しだし、おばあちゃんばっか働いてて、お兄ちゃんは香樹より世話焼けるしさぁ、幸せなわけないじゃんっ。だから、あれは診察ミスだよ」




その言葉に祖母は何も返せなかった。




「・・・まぁ・・・なんにしてもこの間まで意識なかった子に家事はやらせないよ?おばあちゃん」


祖母は少しひきつった笑顔で答える。


「もう・・・いつまでも病人扱いしないでぇ」


そう言って遥は自分の部屋に戻った。

その会話をそっと聞いていた武は、祖母を安心させようと台所に入ってきてお茶を入れ始める。


「ばあちゃん・・・今は何も考えないでおこ?あいつにあんまり意識させても可哀想だし」

「そうだね・・・」







やがて季節は秋になり、遥の発作も起きないまま家族は前と変わらない生活を過ごしていた。





そしてその日、武自身の苦しみがまた始まろうとしていた・・・。



武の携帯が鳴る。



「先生・・・どうしたの?急に」



その電話の相手はすみれだった。




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