幸せという病気
二人が会わないと決めた場所へと歩き、あの時と変わらない夜景を目の前にして、すみれが小さく呟く。


「振られちゃったよ・・・」

「振られたんだ・・・」

「もう・・・恋愛したくない・・・」


その時、武の頭に遥が過ぎった。

すみれが続ける。


「その方が今はいいよね?だって・・・死んじゃうかも知れないもんね・・・?」


それを聞いて、武は現状を話し始めた。


「・・・妹がかかっちまったんだ、幸せ病に。彼氏が出来たとたんだった・・・」

「嘘・・・」

「ホントだよ。いつ発作がまた起きるかわからない。すみれ先生はこんな世の中じゃなかったら・・・恋愛したいの?」

「・・・うん・・・」

「でも、死ぬのが・・・やっぱ恐いよね・・・?」

「誰だって恐いよ・・・」

「俺も恐い。あいつはそれを知ってて恋愛したんだ。恐さよりも、人を好きだって気持ちで前に進んだんだ。それを俺は間違ってるとも、正しいとも今は言えない。あいつが死んじまったら、どーしようもないから・・・でも、俺はあいつのそうゆうとこ好きなんだぁ。意志とかそんな大それたモンじゃないだろうけど・・・ただ、すみれ先生の言ってる事もわかる。命ってやっぱ大事だからさ」

「・・・」



それを聞くと、すみれの思考は止まり、ホロホロと涙だけが零れ落ちる。

一点を見つめ、自然と溢れ出る感情に身を任せる事しか出来ない。

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