幸せという病気
その後、祖母に任せ、武は香樹を家へと送っていく。


「明日は学校休むか・・・歩いて帰ろ?香樹」

「ボク、学校行くよっ。じゃないと、お姉ちゃん良くならないもん」

「・・・そうか。おまえは強いな・・・」

「お兄ちゃんに勝てるぅ?」

「・・・勝てるよ・・・まだまだ負けないけどなっ、お兄ちゃんも・・・よしっ!おんぶしてってやる」

「うんっ!」



夜の帰り道を兄弟は帰っていく。

帰る先には、遥がいない。

受け止めたくない現実を受け止めるしかなかった。

それがいつか、本当の『幸せ』に変わることを祈って・・・。



家に着き、香樹を寝かせた武は、連絡が取れない竜司にもう一度電話をしてみた。

すると十コール目で、覇気の無い声でようやく竜司が電話に出る。


「・・・あっ・・・武さんすか・・・」

「何やってたんだおまえ。遥がまた倒れたんだ。病院は・・・」

「俺・・・今バイトしてるんです・・・」

「バイト?」

「はい。資金貯めようかなって・・・」

「何の」

「・・・結婚のです」



武はそれに対し、否定も肯定もしなかった。



「・・・そうか・・・じゃあ・・・終わったら向かってくれるか?」

「はい・・・だけどちょっと疲れちゃって・・・さすがに掛け持ちはきついっすね・・・まぁでも、今日給料入るんです・・・だからその・・・明日行きます」

「・・・そうか。わかった」


そう言って電話を切ると、武は竜司の様子に少し違和感を感じたが、特に気にせずその日を終える。


翌日。武は、竜司が見舞いに来る事を遥に報告した。


「今日、竜司来るって」

「ほんと?最近なんか疲れてるみたいだったけど・・・大丈夫かな・・・」

「そういえば昨日も元気なかったな・・・」


武と遥がそう話していると、サイレンを鳴らした救急車が病院へ到着し、武はそれを窓から眺めると一瞬、嫌な予感が頭を過ぎる。


「・・・また、幸せ病の患者かな・・・」


そこへ、しばらくして祖母が息を切らして走ってきた。


「・・・どうしたんだよ、ばあちゃん」


武が尋ねると、祖母は興奮しながら答える。
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