あたし、脱ぎます!《完》
「ホントだ!
千葉優衣ちゃんの事務所なんだ。
萌香?
どうするの?!」
たくさんの荷物を揺らしながら、
佳代が興奮ぎみに
あたしの腕を掴んだ。
「……う、うん。
でもあたし、
芸能界には興味ないです。
ごめんなさい……」
真鍋さんに
名刺を返そうとすると、
「突然だから仕方ないよね。
もし興味が出たら、
名刺に書いてある
電話番号にかけて欲しいんだ。
そして
お父さんやお母さんにも
相談して欲しいんだ」
目尻を垂らし、
あたしを促す真鍋さんに、
あたしは「わかりました」と
小さく頷いた。
名刺をポケットに入れた後、
今日は山梨から来たこと、
そして
16歳の高校二年生ということを伝え、
渋谷駅の改札口で
真鍋さんと別れた。
最後に
「お電話ください!!」と
受話器を持つ振りをして、
手を振る
真鍋さんが可愛くも見えた。
山手線に
揺られるあたしたちは
名刺を再度見直し、
芸能界って
どんなところだろう……と語り合った。
嫉妬の世界とか、
自由のない世界とか……
良いイメージがない。
あたしには
無縁の世界だなと思いながら、
一人ではしゃぐ
佳代に話を合わせていた。
ミーハーの
佳代にとって、
自分がスカウトされたのと、
同じぐらい嬉しいのだろう。