フィルムの中の桜と私
「俊也、進路は決まったの?」
美由から話をふる。
「一応な。つっても東京に出るくらいしか決めてない。」
「…東京。どうして?やっぱ写真家?」
東京はここから遠い。美由は小学生の修学旅行で一度行ったくらいだ。
「うん、東京でなんとか写真家目指したいと思う。美由は?」
「私調理学校にした。料理がやっぱ好きだから」「そっか、いいんじゃない?美由昔から料理得意だし」
「うん」
話は途切れた。木枯らしが二人の間に割り込むように吹き抜ける。
美由は場を作るために聞いた。
「彼女さん、元気?」
「ん?ああ、だいぶ前に別れた」
「は?なんで?」
「いや、なんか写真ばっかで愛想尽かされた」
俊也は苦笑混じりに答える。美由はさらに複雑な感情になった。別れた?今俊也は彼女いないってこと?ぇえ~~~~!?
「ホントに可哀想なことしちゃったよ。でもオレはやっぱダメだ。デートっていってもカメラ持ち歩いちゃうし、彼女なんか一枚も撮れなかった。全部自分のいいな~って思った風景ばっか」
「俊也、私なんで調理士目指すことにしたかわかる?」
「ん、料理が好きだから?」
「ま、それもあるけど、さくら公園で俊也の話聞いたからだよ」
「え、そうなの?」
「私、あの時俊也かっこいいと思った。人の未来に楽しみを一つでも増やせたらなぁ~って。私もしたかったんだよ、そんなかっこいいこと。ただいつも逃げてた。出来るわけないって。自分の未来の楽しみのことしか考えてなかった。でも人の楽しみを増やすことが自分の楽しみなんだよね。自分が好きなことやらなきゃダメなんだよね。例え今は笑われても反対されても、いつかみんなにかっこいいなって思われるような人になりたいの。俊也のお陰なんだよ。」
一度出た本音は滑るように流れ出た。美由はいつのまにか泣きながら話していた。
「私…私…昔から俊也のこと…」
そこまで言うといきなり俊也は手を美由の肩に置いた。
「美由、卒業式終わったら二人でさくら公園行こうよ。オレ、待ってるからな」
そう言うと俊也は立ち上がり、自転車にまたがる。
「オレも今、お前のことかっこいいと思ったぜ!」
俊也はそのまま手を振り、闇の中に消えた。
残った美由は涙を拭い立ち上がると、木枯らしが止んでいることに気づいた。
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