フィルムの中の桜と私
翌日、早起きした美由はよく眠れていないはずなのに、いつもの倍、活力があった。 勝手に頬が緩んでしまう。
「俊也、変わったかなぁ…一年ていえば結構変わるよね。あ~緊張する」親には俊也との関係は俊也が上京してしばらくして話した。両家の家族ても、こうなることは予想していたらしい。昔から幼なじみでも特別仲が良かったそうだ。
「運命みたい…しかも桜の木の下で待ち合わせなんて、なんかロマンチック…」
美由はウキウキで今日バイトを休む旨を働いているレストランに電話で伝えた。日頃から一生懸命働く美由にレストランは休暇を快く受けてくれた。
「準備は万端っと。あとは服選びだよね。」
美由はクローゼットの前でしばらく立ち尽くす。その時、階下から母親が美由を呼んだ。
「なに、お母さん」
母親は黙って美由に受話器を差し出す。
美由は怪訝な顔で受話器を耳に当てると、女性の泣き声が聞こえてきた。「美由ちゃん…?大変なの!俊也が…俊也が…」
声の主は俊也の母親だとすぐ分かった。
「もしもし?俊也がどうかしました?」
「今、警察から電話があって…俊也が車に引かれて死んだって…」
「…………え…」
美由は受け入れられる訳がなかった。なに言ってるの?どうゆうこと? 美由は無言で受話器を置くと、隣で心配そうに見ていた母親を押しのけて、自分の部屋へ戻り、服選びを続ける。母親が様子を見に来て、美由の行動を見た瞬間、
「美由!!!」
と叫びながら部屋に入り込んできた。
「美由!しっかりしなさい!さっき電話で聞いたでしょ?俊也君は亡くなったの!」
美由は無言で母親を押しのけ、服を自分の体に重ねて鏡を見ている。
「美由! ショックなのは分かるけど…受け入れて…」
母親は泣きながら美由に話しかけるが美由の返答は、
「お母さん、こっちよりこっちがいいよね。春っぽくて爽やかだし」
と笑顔で話す。
美由はその後メイクをバッチリこなし、昼一時前に家を出た。ウキウキした足取りで。
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