社会の枠
第1章
関東地方が梅雨入りしたと昨日のニュースで報じていた。これから暫くはジメジメした蒸し暑い日々が続くと思うとうんざりする。しかし東京に住んでいる限りは回避できないから現実として受け入れる。イヤなら海外や北海道に移住すればいい事だ。でもそれだけで移住する人は皆無に近いのではないだろうか。要は我慢できる範囲なのだ。しかし、私が我慢できないと思うのが一つだけある。それは『女』という生き物だ。何かあると泣き出すし、感情を露にして怒りだす。決まり文句に『何も女の気持なんかわからないくせに』と自己擁護に動く。確かにわからないし、わかりたいとも思わない。男の様に単純細胞で構成されていれば余計な気をつかわないから付き合い易いのだ。しかも、女は何処にでもいるので世界中のどこに移住しても回避できない存在なのだ。かくゆう私も女から生まれてきた。しかし私を生んだ女は、私が乳飲み子のうちに私を捨てて何処かへ行ったらしい。だから私にその女の記憶もないし恨むほど接していないので何の感情もいだかない。私が今の職業を選んだのも出版業界は男社会だからだ。その選択は間違っていなかったと思っているし、事実掃除のおばさん以外は社員50人は全員男である。その日は昨日の夜中に取材した内容を裏付けするために朝から電話ばかりかけていた。そこに同期入社の高石がやってきて『仁科、編集長が部屋に来いって呼んでるぞ』と、声を掛けてきた。高石は私とは正反対で女とSEXするのを生き甲斐にしていると豪語するほど女好きだ。一時期転職を考えた理由も周りに女がいないのが第一だったらしい。私は仕方なく仕事を中断し編集長室へ向かった。ここの編集長の茂木は2年前、大手の出版社からヘッドハンティングされて鳴り物入りで入社してきた。昔からいるタイプの頑固一徹タイプだが、思う様に発行部数が伸びないのに焦りを感じている様に見える。部屋のドアをノックして中から声がかかる前に扉を開いて中に入ると、私は露骨に嫌な顔をして正面のソファに座っている人物に目を向けた。30半ばの地味な印象の女は立ち上がって私に軽く会釈した。私はそれを無視しながら『お呼びですか?』と尋ねた。茂木は机の上にある原稿に目を向けたまま『今日からお前の相棒兼監視役兼カメラマンの立花さんだ』と紹介した。