社会の枠
第6章
翌日、立花が再び見舞いにやってきた。身の回りの品々や下着まで買い揃えて看護婦さんに説明をしている。二人になった時『仁科さん、すみません。私が一緒にいたらこんな事にならなかったかもしれないと思うと…』と言葉を詰まらせた。確かに襲撃された朝に限って私一人だった。やはり立花の可能性は捨てきれないか。私は『例の写真はどうした?』と訊くと『まだ現像しないで自宅にあります。仁科さんの指示を仰ごうと思いまして…』私は指示を出すまでは、そのまま保管する様に言い、『もう今回の取材はやめる。俺も痛い思いをしたくないからな。しばらくは今秋オープンする話題の店の特集をやる。俺が退院するまで資料を集めておいてくれ』と指示をだし社に帰した。入れ違いに西田が顔をだし『いやぁ、会社に電話したら入院だって聞いてビックリしましたよ。具合はどうです?』と、買ってきた雑誌やら飲み物を枕の脇に置いて鎮痛な面持ちで尋ねてくる。『あぁ、大した事はない。最近追っていたスクープに絡んだ脅しだと思ってる』西田は『どんな内容か知りませんが、あまり危険なら手をひいた方がいいですよ』と心配顔で話す。『俺は続けるよ。もう関係者の写真も現像して家に保管してあるし、あと一歩で記事にできる』『仁科さん、悪い事は言わないから危ない橋を渡るのはやめましょうよ。俺を一番面倒みてくれた先輩にもしもの事があっては耐えられませんからね』と言って、店に戻りますと帰っていった。俺は身体の痛みに耐えながら公衆電話まで歩いていき3ヶ所に電話した。まずは荒木組の奈良にかけた『会社で襲われたらしいですね』といきなり聞いてきた。『はい。取材を続けるか迷ってます。関係者がある程度判明してきたのですが、私も二度とこんな目にあいたくないですから。退院したら自宅にある写真をどうするか考えるつもりです』と話し電話を切った。2件目に若菜に電話し、奈良に伝えた内容とほぼ同じ内容を伝えた。あとは会社に電話し、編集長の茂木に繋いでもらう。『誰か外部の調査会社の人間を私のアパートに張り込みさせて下さい』と頼んだ。茂木は『襲撃犯人が来る可能性があると?』『はい。周囲にエサを撒きました。誰か来たら手を出さずに写真を撮って、可能であれば尾行して下さい』私は電話切ったあと、明日から動きだす為にベッドで暫く思案していた。
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