社会の枠
アポイントをとっているのは若頭の奈良という30半ばの一見ヤクザよりも実業家といったイメージのやさ男に見える。この手の取材のルールとしてネタ元を明かさないのが通例になっている。もちろん写真もご法度だ。私と立花は若い組員によって応接室に通された。一目で高級品とわかる応接セットと分厚い絨毯が敷かれ、壁際には神棚が飾ってある。私達は会話もせずに出されたお茶を飲みながら奈良を待っていた。やがて銀ブチの眼鏡をかけた奈良が入ってきた。私は立花を紹介し、今日の情報料の40万の入った封筒を渡した。奈良は礼を言ってスーツの内ポケットにしまいながら『立花さん、見た所あまり慣れてないみたいだが仁科さんに色々教わって、我々みたいな稼業との付き合い方というのを早く憶えて下さいね』と軽口を言う。それから本題の取材を30分ほどして、我々は礼を言って事務所をあとにした。腹ごしらえに立喰いそば屋に入り、きつねそばを掻き込む。立花も同じものを注文して私に並んで食べ始める。『次はどちらへ行かれるんですか?』と話しかけてくる。私は黙って食べ続け、店を出る時に『今からさっきの情報の裏付けを取るために情報屋に会いに行く。ただし、そいつが信用しているのは俺だけだ。だから俺以外には話さない。お前は社に戻って適当にやってろ』と言って一人で店を出た。
< 4 / 16 >

この作品をシェア

pagetop