last~舞い散る雪の羽根~
結局、おれの朝食が終わるまで待ってもらうことになった。


まあ、時間的にも余裕があるし、若葉自身もそれはわかっていたのだろう。


「悪い、お茶」


おれは架空の湯飲みを森山に差し出す。


「ありません」


「ちょうど切らしてるんだ、今からお前の部屋から取ってきて」


「嫌ですよ、自分で買ってきてください」


「まあ待て、この話を聞いたら、お前はおれにお茶を差し出さずにはいられなくなるぞ」


「・・・どんな話ですか?」


「ある日、お前はおれの部屋の前で血だらけで倒れてたんだ」


「はあ」


「おれはお前を見つけるなり、こう言った。『地球は青いが、お前の色は何色か』と」


「とりあえずわたしの心配してください」


「そうすると、お前は死ぬそうになりながらも必死に答えたんだ。『せんぱい・・・わたしの色は、先輩にお茶を差し出したい色です・・・』と」


「わたし、なんかめちゃくちゃ尽くしてますね・・・」


「そして、おれはお前に最後のお茶を命じる。そして、お前は最後の力を振り絞って、おれにお茶を渡すんだ。そして、おれはそのお茶を飲み干す。それを見届けたお前は、満足げに逝ったんだ」


「すごく美談に聞こえますけど、わたし、せんぱいのせいで死んでますよね?」


「そうかもしれないな。まあ、そんなことはどうでもいいからお茶くれ」


「嫌ですっ」


ぷんすかと横を向いてしまう。


こんなふうに、若葉はからかうと面白いやつなのだ。



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