last~舞い散る雪の羽根~
「こんばんわー!」


ドアを開けると、底抜けに明るい声がおれを出迎えた。


「夜分遅くに申し訳ありません。わたし、上の305号室に住むことになりました、花岡明莉(はなおか あかり)です」


礼儀正しくおじぎをしてくる。


「はあ、どうも・・・」


やや小柄な体型の少女。


推定155センチの身長。


短い黒髪と白いワンピースが、よく似合っている。


いい意味で、昔のアイドルみたいな印象を抱かせる顔立ちだ。


「それで、花岡さんはどのような御用でしょうか?」


「よくぞ聞いてくれましたっ!!」


ジャジャーン、と口で言いながら少女は持っていた紙袋をあさる。


「おそばに参りました―!」


袋からそばを取り出してきた。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


少しの沈黙。


「ああ、引っ越しそばか」


日本にはそんな伝統があったな、と思いつつそれを受け取る。


「・・・あのー、もしかして驚いてます?」


「ちょっとな。珍しいものだったから」


いまどき、引っ越しそばなんて持ってくるヤツがいるということに、軽い衝撃を受けた。


「ダメですよ、古き良き伝統を知らなければ、人類は新しい一歩へと進めません。孔子もおっしゃっています、古きを温めて新しきを知ることが大切だと。そうして人は成長していき、明日をつかんでいったのです」


マシンガントークでまくしたててくる。


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