女王蜂の爪
その夜、あたしはおかしな夢を見た。
ベッドの上で、ハッチがあたしを押し倒してる、夢。
黒い下着で、あたしにのしかかって、キスをするの。
長い爪は何も塗られていない薄いピンク色。
その手であたしのほっぺたを撫でて、それからそれから。
やけにはっきり覚えてるのは、ハッチの笑顔。
いつもの人を見下したような歪んだ笑みじゃなくて、フツウのオンナノコみたいなフツウの笑顔。
それを見て、なぜだか泣きそうなぐらい切なかったのは、どうしてだろう。
目覚めは良かったけど、胸の中は罪悪感ににたよくわからない感情であふれかえってた。
ハッチの下着姿なんて見たことないのに。
ハッチの笑顔なんて、小学生以来、見たことないのに。
ハッチは笑わない。
ハッチは泣かない。
みんな当たり前のように表に出す感情が、表情が、ハッチにはない。
いつからだっただろう。
ハッチが泣かなくなったのは。
ハッチが笑わなくなったのは。
ハッチがあたしの名前を呼ばなくなったのは、いつからだっただろう。