落とし子
 この場所なら獅子も来られません。

 すると、草かげから男の子をのぞいている子供がいました。

 僕だけが知っている場所なのに、と男の子はその子に近づきました。

(この子も隠れに来たのかな……?)

 男の子はその子の姿を不思議に思いました。

 その子は緑の浴衣を着ていました。お祭りなので浴衣自体は珍しくありません。

 でも、その子の浴衣はちょっと違います。

 浴衣の模様があの獅子が着る布そっくりだったからです。


 男の子はちょっとだけ怖くなりました。

 でもその子が笑いかけ、男の子はほっとしました。

「何してるの?」

 男の子が言いました。

「何してるの?」

 男の子は困りました。自分が聞いたのに、その子にそのまま返されてしまったのです。

「何してるの?」

 その子はまた問いかけてきました。

 何回も聞かれ、男の子はちょっぴりむっとします。でも、その子は繰り返し聞いてくるのです。

 男の子は答えました。

「獅子から逃げてきたんだ……」

「どうして怖いの?」

 男の子の気も余所にその子がまた聞き返しました。

 男の子は思わず声を大きくし、その子に言い放ちます。

「あんなに体が大きいんだもん! そんなのに食べられるなんて、ぼくはやだよ!!」

「ふうん……」
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