秘密の花園
シミュレーション7
On Your Mark?
「お゙ねえじゃん…。ぎおづげでいっでぎてね…」
パジャマに季節はずれのカーディガンを羽織った唯香が息も絶え絶えに言う。
「あんたこそ大丈夫なの?」
わざわざ玄関まで見送りに来なくたっていいのに…。
そう思った瞬間、唯香の表情がほわんと緩んだ。
「ハックシュンッ!!」
姉の私が耳を塞ぐほどの盛大なくしゃみである。
「大丈夫?唯香?」
「あだじもいぎだがっだよぉ…」
今にも泣きそうになりながら私の服を引っ張る。
昨日までは“私も撮影についてく”って息巻いてたのに、季節はずれの夏風邪を引くなんてわが妹ながらなんてどんくさいんだろう。
それがたまらなくおバカで可愛いんだけどね。
「はい、チーン」
ティッシュを取り出して、唯香の鼻に当てると素直にズルルルルと鼻をかんだ。
「じゃあ、いってきます」
「いっでらじゃーい」
玄関の扉にもたれてばてている唯香に見送られながら、私はサタンのいる魔窟へと旅立ったのだった。