秘密の花園
「こんなとこで泣くなよ」
声を掛けられたことを不思議には思わなかった。
奴のほうがコンパスが長いことを先に思い出したからだ。
最後の詰めが甘いのはもう癖みたいなものだ。
「私だって泣きたいときは泣くわよ」
強がって開き直るくらいしか選択肢はない。
鼻をズビッと啜る音がやけに大きく響く。
サタンはそんな私を道の端に連れて行き、どこからかハンカチを取り出して差し出した。
借りたハンカチはいい匂いがして顔から出た液体を拭くのには不釣合いに思えた。
「なあ、純のことか…?」
そのひと言で頭の中が一瞬でクリアになった。
そっか…。そういうことか…。
「知ってたの?水瀬さんが結婚してたこと…」
「…ああ」
サタンにしては妙に歯切れが悪かった。
魔王にも後ろめたいなんて感情があるようだ。
これですべて合点がいった。