秘密の花園
携帯電話のけたたましい着信音が鳴ったのはその時だった。
笑顔で迫ってくる唯香を押しのけて液晶を確認してみると、電話を掛けてきたのはサタンだった。
無視したい気持ちで一杯になる。
けれど、某SF映画の人気悪役のベースダイダー卿のテーマソングは鳴りやまない。
私は仕方なく、通話ボタンを押した。
「もしもし?」
<おい、例の件はどうすんだよ>
……電話を取った途端に用件ですか、この野郎。
「例の件?」
私は首を傾げながら尋ね返した。
<可愛くなりたいって言ったのはお前だろう>
「そうだけど……」
昨日の夜のことは酒に酔っていたものだから、記憶がおぼろげだった。
服従とか、聞き捨てならないことも言われたような……。
<その気があるなら明日10時にいつもの駅の改札に来い>
ツーツーと通話が終わったことをお知らせする音が耳元で響く。
忙しない奴……。
間接的に花園を壊滅させた魔王は、今度は私を籠絡するつもりらしい。
ダメだ。あいつの考えていることはさっぱりワケワカメ。