秘密の花園
「それにしても、すごい量ですね」
30巻もあるマンガを大人買いですか。
水瀬さんがレジに持ってきたのは、この間完結を迎えたばかりの少年漫画の単行本だった。
主人公の男の子が悪役をばっさばっさとなぎ倒す戦国アクション物は、私も全巻持っている。
「佐田さんに差し入れしようと思ってね。暇しているだろうから」
サタンの名前が出てきて、ぎくりと肩が震える。
「……お店の方はどうなっているかご存知ですか?」
本を包んでいたビニールを剥ぎ取りながら尋ねると、水瀬さんは快く答えてくれた
「大丈夫、通常営業しているよ。問い合わせの電話とメールは何件かあったみたいだけどね。佐田さんも本店にはまだ戻れないけど、来週からうちの支店にヘルプで来てもらうことになっているよ」
安心してと、水瀬さんは最後に付け足した。水瀬さんは事の次第を知っているのだ。
私は少しだけ安心した。
サタンが無職になることも、炎上したお店の末路も考える必要もなくなったのだ。
「あの、サタン……佐田さんは怒っていませんでした?」
「どうして?」
「あれから何も連絡がこないし……。私が余計なことしちゃったから……」