秘密の花園
テーブルにメイク道具を広げて、鏡の前に身を乗り出そうとして、はたと気が付く。
……あれ?なんか上手く出来ないぞ。
肘をぐいっと引っ張ると、胸元を覆っていたひらひらでふわふわのレースがもれなく揺れる。
可愛いは可愛いけど、今は邪魔で仕方ない。
これではメイクどころか、髪の毛だって結えやしない。
ウェディングドレスってめちゃめちゃ動きにくいのね、知らなかったわ。
あはは、はは、ははは……。
ここら辺で、なんとなーく重い空気になってくる。
さっきから、うっすら思っていたけど……。
もしかして、ドレスってメイクしてから着るもの?
思わぬ事実の発覚に、絶望で打ちひしがれそうになった。
「原田さーん、お客さんが来ているわよ」
それでも負けじと動きにくいドレスに悪戦苦闘していると、控室の出入り口に立っていた係の人に名前を呼ばれた。
このクソ忙しい時に……誰だよ。
ぶつぶつ文句を言いながら、尋ねてきた人物に視線を向ける。
「よう、バカ女」
「サ、サタン!!」
私はサタンの顔を見るとすぐさま、控室から外にその背中を押しやった。
控室には嵐子だっている。あいつに見つかったら話がややこしくなるだけだ。