秘密の花園

「……あずなさん?」


なんであずなさんの話がこのタイミングで出てくるのだ。


それに、明らかに先輩であろうあずなさんを呼び捨てにするなんて。


もしかして……。


「俺の奥さん、あずなだよ。もしかして、それは知らなかった?」


「全然……」


自己紹介してもらった時、あずなさんは“水瀬”ではなく“東海林”と名乗った。


既婚者かどうかなんて……ましてやあずなさんと水瀬さんが結婚しているということを知る術は私にはない。


……唯一の情報源を除けば。


多分、佐田さんはわざと伏せていたのだ。


私があずなさんと気まずくならないように、巧みに話題を避けていたのだ。


……これ以上、傷つかないように。


かさぶただらけの傷口が少しだけヒリヒリする。


佐田さんに守られていたことを知って、ちょっぴり泣きそうになった。


私は水瀬さんに向けて一生懸命、笑顔を作った。


「あずなさんなら水瀬さんとお似合いですね」


「ありがと。そう言ってもらえて嬉しいよ。あずなの方が年上だし、仕事の面でもまだ敵わないから」


年下だという引け目が水瀬さんの表情を曇らせている。


思い悩んでいる姿は、あれほどそっくりだと思っていたソウイチさんとは似ても似つかなかった。


当たり前だ。ゲームの中には悩むや苦しみもないからだ。


< 267 / 289 >

この作品をシェア

pagetop