秘密の花園
だから無理だってばよ
「おっせーよ」
店の扉を開くなり待ち構えていたのは仁王立ちでひどくご立腹のサタンだった。
め…目があったら殺される。
「すいません…。道に迷いました」
若干視線を横にずらしながらも正直に白状すると、サタンははあっと安心したように息を吐いた。
「来ないかと思ってた」
ええ、いっそのこと帰ろうかと何度も思いましたよ。マジで。
「ちょっと待ってろ」
サタンは私を椅子に座るように促すと、店の奥へと消えていった。
ポツンとひとりで取り残された私は怖ず怖ずと椅子に浅く腰掛けるしかなかった。
人生2度目の美容院は初めての時よりよっぽど緊張していた。
寄る辺となる唯香が不在であり、カットモデルなる未知との遭遇を果たさなければいけないからだ。
こんな時こそ花園にお出ましして頂きたいのだが、サタンがいつ戻ってくるかと思うと気が気じゃない。
これ以上やつの前で墓穴は掘るまい。
乙女ゲー好きだとばれた挙句に、水瀬さんにほの字だということがあっさり見破られたのはもはやトラウマである。