命しぶとく恋せよ乙女!


沈黙する二人を前になるべく冷静を装う。山瀬が遠まわしに岡田を机からのけながら、もう一度弁当を覗き込んだ。
「…いやでも、手ぇ込んでるよこれ」
「無駄にね」
もっと他のことに使えばいいのに…愛沢は俺に尽くしすぎだ。俺から見ても周りから見てもどう見ても。
「あぁ…俺はどうすればいいんだ。警察に駆け込むべきなのか…?」
「俺は大事にしないほうがいいと見る」
「そうねー…それなら、逆に嫌われる努力をしてみたら?」
「…え?」
岡田がにんまりと、玩具を見つけた子供のようにいやな笑みを見せる。続けて山瀬が納得したように手のひらをぽんっと打った。
「あ、なるほどー。逃げてもダメなら、向こうから逃げるように仕向けろってことね」
「そっ! 相手が尽くしてくれるなら、それを超えるわがままでも言ってみればいいんじゃない?」
「そ、そっか…」
岡田が人差し指を立てながら説明するその姿に、しみじみと納得する。そうか、そんな手が…。
「でも具体的には何をすればいいのか…」
「何言ってんのよぉ! 任せなさい! 壊したハートは数知れず、私が動けば修羅場あり…私こと別名クラッシュ岡田がついてる!」
「だから女子に恋愛相談されないのか…って痛!」
「何か言ったー山瀬ぇー? んー?」
「ないないないないすみません!」
ナイフでぺちぺちと頬を叩いて脅迫する岡田に山瀬が必死に謝る。が、次の瞬間愛沢が教室のドアを破壊せんばかりの勢いで開けたため刺されることはなかった。
あっという間に岡田を含めクラス全員の視線が愛沢に向く。しかも開口一番に俺の名前を出しやがった。この馬鹿。
「多架斗くんごめんねいなくてさびしかったよねっ! 大丈夫! 私がいるよ今行くよお弁当食べてくれたっ!?」
「あ、愛沢…」
愛沢は授業が終わってすぐ俺のところへこれなかったのがよほど悔しいのか、机をずんずんと押しのけて一直線に俺へと迫ってくる。クラスメイトも唖然、目を丸くしている。何かとてつもない現象が起こっているのに言葉が出ないといった状況だ。
がちゃんどたんと机を左右に倒しながら、なおも愛沢は続ける。


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