王子様の秘密-上-



「…成弥、ごめんなさい…」

「だから、なにが?」

「その…
前、嫌いとか言って…」

「………あー、あれ…」



上から成弥の声が降って来る。

いつもの意地悪とか、怒った気配がなくて…

慰めてくれるような、優しい声だった。



「俺、気にしてねぇよ?
今まで忘れてたし…」

「えっ…?
じゃあ、何で態度変え…」

「鈍感な陽菜には教えられねぇよ」

「なっ!?」



怒って顔を上げると…


あっ…

真剣な顔をした成弥と目が合った。


成弥の目に捕らえられて、麻痺したように動けなくなる…



「……………」

「……………」



お互いに無言のまま見つめ合った。

私は、成弥の腕から逃げ出そうともしなかった。


むしろ、このまま時間が止まればいいと思えたんだ。



「…陽菜」

「え?」

「最後に…
キスだけさせてくれねぇ?」



“最後”って…なに?

このとき、私は知らなかった。

私だけ知らなかったんだ。


ヒントはこんなに近くにあったのに…


私はそれさえ気付けずに、成弥を傷付けたんだ…



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