だから、お願い
手に余るほどに
暗い部屋に、ベッドサイドにつけられた明かりだけが、ここがどこなのかを思い出させる。
冷たいシーツに、機械的な音。
ドア一枚を隔てた先には、男のシルエットがぼうっと浮かび
うるさいほどの水音が、耳に刺さる。
一枚の布も羽織らないままにベッドに横たわり
目だけが天井をじっと見つめる。
『みお』
ぽたぽた、と落ちる滴。
いつの間にか、風呂から上がってきた男が、煙草を片手にどすんとベッドサイドに腰をかけた。
鍛えられた体。
見る度に、彼は男であたしは女なのだと思い知らされる。
ありあまる程の力は、一体なんのためにあったというのだろう。
天井に向いていた視界を、ふと自分の腕に向ける。
青紫色に変色した、皮膚。
『愛してる』
彼は、悲しそうに笑いながら、あたしに言う。
愛している、と。
その度に、あたしはまた彼から離れられなくなってしまう。
近付く煙草の匂いに嫌悪感を抱きながら、それでも心は彼を求めていた。
正しくは、彼を、ではなく
彼の愛をだったのかもしれないけど。