だから、お願い




『何食う?』



結局拓也は昼前まで起きなくて、一番暑い昼過ぎにあたしたちはホテルを出た。



休日の街。



家族連れや、なんやかんやで、ありえないほどに人が密集している。




日差しが強い。光が、肌に突き刺さる。





『焼き肉食べたい!』



『は?昼間から?』



通りかかった焼肉屋を目の前に、あたしは足を止め、拓也の腕を引っ張った。



いい匂いがする。そういえば、昨日の昼から何も食べていなかったことを思い出した。




『ねぇ、拓也焼肉~~』



渋い顔をする拓也に、精一杯のおねだりをしてみせた。




『肉とか…、お前どうせ残すだろうが』



『だって、拓也食べてくれるでしょう?』




こんなにも天気のいい休日。



たかが昼食なんかのことで、話をするあたしたちは


きっと、とても幸せなのだと思う。






あたしの押しに負け、結局あたしたちはその焼肉屋に足を踏み入れた。



ぶつぶつ文句を言いながら歩く拓也に、ちょこちょこと付いて行く。




拓也がこっちを見下ろす



『ありがとう』


と、言うと、とても優しく微笑みながら、あたしの頭にぽんと手を置いた。





< 6 / 11 >

この作品をシェア

pagetop