だから、お願い
『何食う?』
結局拓也は昼前まで起きなくて、一番暑い昼過ぎにあたしたちはホテルを出た。
休日の街。
家族連れや、なんやかんやで、ありえないほどに人が密集している。
日差しが強い。光が、肌に突き刺さる。
『焼き肉食べたい!』
『は?昼間から?』
通りかかった焼肉屋を目の前に、あたしは足を止め、拓也の腕を引っ張った。
いい匂いがする。そういえば、昨日の昼から何も食べていなかったことを思い出した。
『ねぇ、拓也焼肉~~』
渋い顔をする拓也に、精一杯のおねだりをしてみせた。
『肉とか…、お前どうせ残すだろうが』
『だって、拓也食べてくれるでしょう?』
こんなにも天気のいい休日。
たかが昼食なんかのことで、話をするあたしたちは
きっと、とても幸せなのだと思う。
あたしの押しに負け、結局あたしたちはその焼肉屋に足を踏み入れた。
ぶつぶつ文句を言いながら歩く拓也に、ちょこちょこと付いて行く。
拓也がこっちを見下ろす
『ありがとう』
と、言うと、とても優しく微笑みながら、あたしの頭にぽんと手を置いた。