だから、お願い
店内に入ると、昼間にも関わらず、家族連れやカップルで席がほぼ埋まっている状態だった。
奥の窓際の席に案内され、重たい荷物を肩から下げると
どれだけ体力がないのだろう。疲れがどっと襲い、そのまま背もたれに項垂れてしまった。
『みお?』
『…ん?』
『疲れたか?』
心配そうにあたしの顔をのぞきこむ拓也に
『大丈夫』
とだけ言うと、運ばれてきた水を一気に飲み干した。
メニューを手にとり、どれにしようかと選んでいると
前後左右にいる人たちの楽しそうな声が耳にささった。
お父さんが肉を焼き、お母さんが子供たちに取り分け
お皿に入ったピーマンを嫌がる子供に、『野菜も食べなさい』とお父さんが諭す。
休日の、見慣れた風景。
なのにあたしは経験したことのない光景。
メニューの最後のページにあった"ファミリーセット"が目につき
『拓也!これがいい!』
というと、それこそ呆れた顔をされ
『まて。ただでさえ食わへんお前と四人前頼むんか?』
ともっともな答えを返されてしまった。
ぶぅと膨れてみせ、メニューを拓也に手渡す。
少し見たあとに、拓也が店員さんを呼び
少しあたしの方を向いてから
『ファミリーセットで』
と、告げた。