妖魔04~聖域~
ずっと昔から、冬狐という存在を知っていた。

それは燕も同じだ。

記憶の笹原冬狐は元気がない印象で構築されている。

虚ろで、生きる事を放棄したような程に、暗かった。

冬狐が里を去る前は、まだ笑顔も明るさもあった。

数年後に里に帰還してからは見違える程、暗くなっていた。

帰還した冬狐は一人、部屋に篭っていた。

何をしているかは俺には解らなかった。

母親である笹原久遠も心配していたが、無視するかのように部屋から出てくる事はなかった。

気に入らなかった。

自分は一人で生きているというような態度が鬱陶しい。

ある日、冬狐の部屋の扉を破壊し、外に連れ出した。

露骨に嫌がっていたし、抵抗を見せた。

だが、冬狐が母親にするように、俺も無視した。

連れてきたのは里を一望出来る場所。

「ずっと家に篭って、部屋の中でじっとして、自分を壊すつもりか」

冬狐は俯いて黙ったままだった。

「皆に心配かけて、何が面白い?」

「うるさい」

「ああ?」

「うるさいんだよ!何も知らないくせして!」

冬狐の眼差しには憤怒と憎悪が込められている。

俺に対しての怒りはもちろん、他の事でも怒っているようだった。

「私がどんな思いをしたか知ってるの!?何も知らないんだよ!知らずに幸せに暮らしてきたんだ!」

冬狐は苦しんでいる。

何かに囚われて、抜け出せないようだ。

「何もかも苦しかった。誰の助けもなかった。私は生きる事でいっぱいいっぱいだった。ねえ、これって絶望を感じるわよね?でもね、時が経つにつれて感覚って鈍くなってくるのよ。絶望を絶望と感じなくなるくらいにさ!」

冬狐は溜めていた苦しみを吐き出した。
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