妖魔04~聖域~
「でも、希望もあった。あいつが目を離してくれたおかげで、逃げ出すことが出来たのよ」

冬狐は遠い目でどこかを見ている。

「でもね、鈍った感覚を取り戻すことが出来なかった」

何かを確かめるように、胸に手を置いた。

「苦しいか?」

「アンタには解らないわ」

背中を向けて、俺から目をそらす。

「俺に苦しみをぶつけろ」

「私に苦しみを与えた相手はアンタじゃない」

俺は冬狐の肩を持って、無理矢理向かせた。

「やれと言っているんだ。溜め込んで気持ちを歪ませるよりはいい。言葉をぶつけるなり、殴り倒すなりすればいい」

肩から手を離すと、体に力を入れる。

「代償行動にはならない」

「溜めるな!溜めればさらに苦しむ!やらなきゃ俺が許さん!」

「本当、馬鹿で無理矢理すぎる」

戸惑いの色は隠せない。

「お前如きの力では倒れん自信がある」

しばらく考えた後に冬狐は決めたようだ。

「言ってくれるわね」

次の瞬間、俺の腹には拳が突き込まれていた。

「アンタには、何も解らないって言ってるのよ!」

何度も何度も俺を殴りつけ、言葉を吐き出した。

俺は何も言う事なく、痛みに耐える。

打ち込まれる一撃一撃が重くて、気を失いそうなくらいだ。

顔に傷が入り、全身の骨が軋む。

俺は最後まで立ったまま、冬狐の攻撃は終わった。
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