妖魔04~聖域~
「はあ、はあ」

中腰の格好になりながら、肩で息をしている。

「気分は、晴れたか?」

顔を腫らし体中に傷をつけ、立つのも辛い。

「こんな事しても、意味ない」

涙を溜めた冬狐は、その場に座り込んだ。

次第に、涙が頬を伝わり始める。

「意味ない、こんなの、意味ないの」

止め処なく流れる涙に対して、戸惑っているのか。

止まった時を動かすきっかけになったかもしれない。

奥底まで追いやられた感情を引き出すには、どんな形でもやるしかなかった。

非常に面倒な話だ。

でも、光の下を歩いてもいい女が、日陰で暮らすのが許せなかった。

その後、目を腫らした冬狐と共にいた。

日が暮れるまで、里を見下ろしていた。

喉が渇くだろうと思い、手渡したのが魔草青汁だった。

当初の青汁は不味い記憶があった。

しかし、冬狐は一気に飲み干した。

苦々しい顔をしていたが、思いつめた顔はしていない。

蓄積された闇が消えたとは思わない。

何があったのかは解らないが、受けた傷は深く抉られたものだ。

孕み続けた闇は心を崩壊させる一歩手前まで来ていた。

俺の受けた傷が少しでも闇を削ることが出来るのであれば、幸いだ。

「君は気が利かないわね」

しかめた顔と一言だけを残して、俺達は里へと戻っていった。
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